企業の健康経営の鍵は女性にあり。女性ならではの健康課題に向き合うことで企業の業績も上向く可能性

多様化する働き方やストレス社会の中で、企業における「健康経営」の重要性が高まっています。特に注目すべきは、これまで見過ごされがちだった女性特有の健康課題です。月経痛、更年期障害、妊娠・出産に関わる心身の変化—これらの「見えない健康課題」に企業が積極的に向き合うことで、女性社員のパフォーマンスは向上し、結果として組織全体の生産性と業績アップにつながる可能性を秘めています。本記事では、女性の健康支援を軸とした健康経営の必要性と実践方法、そして成功事例を紹介します。明日からでも始められる健康経営の第一歩を踏み出してみませんか？

なぜ今、健康経営が注目されているのか

日本社会の構造的変化と健康リスク

日本の労働環境は大きく変化しています。少子高齢化による労働人口の減少、働き方改革による労働環境の見直し、そしてコロナ禍を経て広がったテレワークの普及。こうした変化の中で、企業にとって「人材」の価値はますます高まっています。

経済産業省が推進する健康経営は、「従業員の健康保持・増進の取組が、将来的に収益性等を高める投資であるとの考えのもと、健康管理を経営的視点から考え、戦略的に実践すること」と定義されています。つまり、社員の健康を「コスト」ではなく「投資」と捉える考え方です。

特に現代社会では、メンタルヘルスの問題や生活習慣病の増加、長時間労働によるストレスなど、健康リスクが多様化・複雑化しています。これらの問題に対処するためには、個人の努力だけでなく、企業による組織的な取り組みが不可欠になっているのです。

女性の社会進出と健康課題

さらに、女性の社会進出が進む中で、女性特有の健康課題への対応も重要性を増しています。女性は生涯を通じてホルモンバランスの変化に伴う心身の変調を経験します。月経前症候群（PMS）、月経痛、更年期障害などは、業務効率や集中力に直接影響を与える可能性があります。

厚生労働省の調査によれば、7割以上の女性が何らかの健康課題が仕事へ影響があると感じていることが報告されています。また、更年期症状、妊活・不妊治療、女性特有の疾病について、影響があると感じている人が3割程度であることも示されています。また、他の調査結果では、以下のような数値も報告されおり、女性の健康課題が仕事に与える影響の大きさがわかります。

• 月経随伴症状により仕事のパフォーマンスが半分以下になると答えた女性の割合は45%
• 月経随伴症状の仕事への影響を感じている女性は86.6%に上る
• 更年期症状によってパフォーマンスが半分以下になると答えた女性の割合は46%
• 更年期症状がある時の生産性は平均すると50%前後に低下

これらの「見えない健康課題」に適切に対応することは、女性社員のウェルビーイングを向上させるだけでなく、企業全体のパフォーマンス向上にもつながるのです。

健康経営がもたらす企業への好影響

業績向上につながる健康経営

健康経営に取り組むことで、企業はどのようなメリットを得られるのでしょうか？

経済産業省の「健康経営銘柄」に選定された企業の株価パフォーマンスは、TOPIX（東証株価指数）と比較して高いパフォーマンスを示す傾向があることが報告されています。

具体的な効果としては、以下のようなものが挙げられると思います。

1. 欠勤率・離職率の低下：健康状態の改善により、病気による欠勤や早期離職が減少
2. 生産性の向上：健康な従業員はパフォーマンスが高く、質の高い仕事を提供
3. 医療費・健康保険料の削減：予防的取り組みにより、長期的な医療コストが削減
4. 企業イメージの向上：健康経営は企業の社会的評価を高め、優秀な人材の確保に寄与
5. 組織の活性化：健康への取り組みを通じて社内コミュニケーションが活性化

女性社員の健康支援がもたらす特別な効果

女性社員の健康課題に焦点を当てた取り組みには、さらに特別な効果があります。

女性特有の健康課題に対する理解と支援体制を整えることで、女性社員は自身の健康状態に合わせた働き方ができるようになります。これにより、体調不良による生産性低下や欠勤が減少するだけでなく、「自分の健康に配慮してくれる会社」という心理的安全性が高まり、会社への帰属意識や満足度が向上します。

また、女性の健康課題に配慮した職場環境は、女性活躍推進の面でもプラスに働きます。「女性にとって働きやすい会社」という評判は、優秀な女性人材の採用・定着に直結します。多様な人材が活躍できる環境は、多様な視点やアイデアを生み出し、企業の創造性や問題解決能力を高めることにつながるのです。

健康経営、経営者は何をすべきか

健康経営の第一歩

では、具体的に経営者はどのように健康経営に取り組めばよいのでしょうか？

まず大切なのは、健康経営を単なる「福利厚生」や「CSR活動」ではなく、「経営戦略」として位置づけることです。トップ自らが健康経営の重要性を認識し、経営課題として取り組む姿勢を示すことが不可欠です。

具体的なステップとしては、以下のようなものが考えられます。

1. 健康経営宣言の策定：経営トップが健康経営に取り組む姿勢を社内外に宣言
2. 健康課題の把握：健康診断データの分析や従業員アンケートを通じて、組織の健康課題を特定
3. 健康経営計画の策定：短期・中期の目標設定と具体的な施策の計画
4. 体制の整備：健康経営を推進する担当部署や責任者の設置
5. PDCAサイクルの実施：定期的な評価と改善の仕組みづくり

女性の健康課題に対応する具体策

女性の健康課題に対応するためには、さらに踏み込んだ対策が必要です。

1. 女性特有の健康課題に関する理解促進
   • 経営層や管理職向けの研修実施
   • 社内セミナーや情報提供の充実
2. 柔軟な働き方の導入
   • フレックスタイム制度の導入
   • リモートワークの活用
   • 体調不良時の休暇取得しやすい環境整備
3. 職場環境の整備
   • 休憩スペースの確保
   • 温度調整可能なオフィス環境
   • 女性用休憩室の設置
4. 健康相談体制の整備
   • 産業医・保健師による健康相談
   • 外部専門家との連携
   • 女性特有の健康課題に特化した相談窓口
5. 福利厚生の充実
   • 婦人科検診の費用補助
   • 治療費の一部補助
   • 健康増進プログラムの提供

これらの施策は、女性社員だけでなく、全ての社員にとって働きやすい環境づくりにつながります。多様な働き方を受け入れる柔軟な組織は、様々なライフステージにある社員がそれぞれの能力を最大限に発揮できる土壌となるのです。

健康経営の成功事例

先進企業に学ぶ健康経営の実践

健康経営に積極的に取り組んでいる企業の事例から、具体的な施策と成果を見ていきましょう。いずれも中小規模法人でありながら、女性の健康課題に積極的に取り組み、健康経営で成果を上げている実例です（詳しくは経済産業省「健康経営優良法人 2023 中小規模法人部門」の資料を参照）。

事例1：株式会社テクノステート

製造業のテクノステート社（神奈川県）では、女性特有のがん検診受診率向上を目指した取り組みを行っています。アンケート調査により「検診方法が分からない」「忙しくて行く時間がない」「婦人科に行くのをためらう」といった声が多かったことに着目し、独自の対策を実施しました。

具体的には、受診方法などを記載した独自のパンフレットを作成したほか、定期健康診断実施日に子宮頸がん検診車の派遣ができるよう検診医療機関との調整を行いました。これにより、女性従業員が安心して検診を受けられる環境を整備しています。職場での取り組みを通じて、従業員の健康意識が向上し、より自発的に健康に関する行動を取る従業員が増えたと報告されています。

事例2：Ａ’ｓ社会保険労務士法人

専門・技術サービス業のＡ’ｓ社会保険労務士法人（宮崎県）では、女性特有の健康課題に対する組織的な理解と支援を重視しています。職員全員が女性という特性を生かし、小さい子供を持つ職員も安心して働けるよう、就業時刻の15分前に帰宅できる仕組みや入社時より有給休暇12日の付与など、女性のライフステージに配慮した制度を設けています。

また、女性特有の健康課題に対処するため、女性の健康に特化した研修の実施や、婦人科検診受診にあたっての経済的支援、検診受診日の振替にも柔軟に対応できる体制を整えています。これらの取り組みにより、対象職員全員が婦人科検診を受診する成果を上げ、働きやすい職場環境の実現に成功しています。

事例3：株式会社エルパティオ

サービス業のエルパティオ社（愛媛県）は、女性活躍推進企業として、女性の健康課題に積極的に取り組んでいます。従業員が自身の健康課題に気づき、向き合えるよう「健康管理ノート」を個人ごとに作成。このノートには健康診断で指摘された事項や日々感じている健康の悩みを記入し、社内の看護師資格を持つ従業員がアドバイスを提供しています。

さらに、漢方医・心理カウンセラーとの定期的な健康相談の機会を設け、個々の健康課題に寄り添ったサポートを行っています。こうした取り組みの結果、従業員の生活習慣や健康に関するリテラシーが向上し、「要精密検査・要医療率」が33%から18%まで減少。体調不良を理由とした突発的な休みも減少し、職場全体の健康状態が改善されています。

女性の健康課題理解が健康経営の近道

「見えない健康課題」への理解がカギ

女性特有の健康課題は、外見からは判断しづらい「見えない健康課題」です。月経痛や更年期症状は、個人差が大きく、周囲の理解を得にくいという特徴があります。しかし、これらの課題に対する組織的な理解と支援は、健康経営を成功させる重要な要素となります。

なぜなら、女性特有の健康課題への対応は、以下のような普遍的な健康経営の要素を含んでいるからです。

1. 個人の多様性への配慮：健康状態や体調は個人によって異なることへの理解
2. 心理的安全性の確保：健康について相談しやすい組織風土の醸成
3. 柔軟な働き方の実現：個人の状況に応じた働き方の選択肢の提供
4. 予防的アプローチ：未然に健康問題を防ぐための情報提供や環境整備

これらの要素は、女性特有の健康課題に限らず、全ての社員の健康管理において重要です。女性の健康課題への取り組みを起点として、組織全体の健康経営の質を高めることができるのです。

地方中小企業こそ健康経営が必要な理由

人材確保と地域活性化の観点から

大企業に比べ、経営資源の限られた地方の中小企業では、健康経営にまで手が回らないというケースが多く見られます。しかし、地方の中小企業こそ、健康経営に積極的に取り組むべき理由があります。

まず、地方では都市部以上に深刻な人材不足に直面しています。健康経営に取り組み、「働きやすい会社」としての評判を高めることは、優秀な人材の確保・定着に直結します。特に、女性の健康課題に配慮した職場環境は、女性人材の採用において大きなアドバンテージとなります。

また、中小企業では一人一人の社員が担う役割が大きく、社員の健康状態が企業の生産性や業績に与える影響も大きくなります。健康経営による社員の健康維持・増進は、中小企業の事業継続性や成長性を高める重要な要素となるのです。

さらに、健康経営優良法人認定制度（通称：ホワイト500、ブライト500）などの認定を受けることで、企業イメージの向上や公共調達での加点評価、金融機関からの融資条件の優遇など、様々なメリットも期待できます。

地方の中小企業が健康経営、特に女性の健康支援に取り組むことは、企業の発展だけでなく、地域の活性化にも寄与するものといえるでしょう。

まとめ：女性の健康を起点とした健康経営の実践に向けて

健康経営、特に女性の健康課題に配慮した取り組みは、単なる福利厚生ではなく、企業の持続的成長を支える経営戦略です。女性特有の健康課題に向き合うことで、女性社員のパフォーマンス向上はもちろん、組織全体の健康意識の向上やダイバーシティ推進にもつながります。

健康経営の取り組みは、一朝一夕に成果が出るものではありません。しかし、経営トップのコミットメントのもと、計画的・継続的に推進することで、確実に企業体質の強化につながります。

女性の健康支援を軸とした健康経営に関心をお持ちの企業様は、ぜひ以下の機関・団体にご相談ください。貴社に最適な健康経営の形を見つけていきましょう。

企業の未来を変える健康経営—その第一歩を、女性の健康課題への理解から始めてみませんか？

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