医療や健康関連商品の誤情報に惑わされない力を身につける:ヘルスリテラシーの重要性

インターネットの普及により、健康や医療に関する情報は指先一つで手に入る時代になりました。しかし、情報が溢れている現代社会では、玉石混交の情報の中から質の高いものを見極めることが難しくなっています。健康や医療に関する情報を正しく理解し、適切な判断をするための力、すなわち「ヘルスリテラシー」の重要性が高まっているのです。
数字のトリックに騙されないために
「数字で表現された情報を目にすると、なんとなく頭が拒否反応を示してしまう」という方は多いのではないでしょうか。特に医療や健康情報には統計データやエビデンスが多く含まれているため、その内容を正しく理解して評価するにはある程度のスキルが必要です。
例えば、ダイエットサプリメントの広告で「使用者100人が痩せた」という商品Aと、「使用者10人が痩せた」という商品Bがあれば、一見すると商品Aの方が効果的に思えます。しかし、商品Aの実際の使用者が1,000人中の100人だったとしたら(つまり10%の成功率)、一方で商品Bが20人中10人に効果があった(50%の成功率)なら、どちらが効果的でしょうか?
このように、数字を含む客観的に見える情報でも、全体像を把握しなければ正しい判断はできません。魅力的な表現の裏には、意図的に隠された「都合の悪い情報」が潜んでいることを常に意識しましょう。
「効く」とはどういうこと?
医療の世界では「100%効く」というものはありません。例えば新薬の臨床試験で「40%の患者に効果があった」という結果があったとします。これは裏を返せば「60%の患者には効果がなかった」ということです。
さらに、「新薬Aは標準薬Bと比べて2倍効く」という表現も注意が必要です。これは相対リスク(または相対効果)と呼ばれるもので、例えば標準薬が20%の患者に効いたのに対し新薬は40%に効いた場合、「2倍効く」と表現されます。しかし、絶対的な効果は40%であり、60%の患者には効果がないという事実は変わりません。
「画期的」「話題の」「最新の」といった言葉に惑わされず、治療の絶対的な効果と相対的な効果の両方を確認することが重要です。
「質の高い情報」と「質の低い情報」
膨大な情報の中で、真に「質の高い情報」は限られています。質の高い情報とは、根拠が明らかで、突っ込みどころが少ない情報のことです。医療や健康に関する情報を入手したときには、それが信頼に値するかどうかを立ち止まって考えることが大切です。
ヘルスリテラシーが低いと、どうなるでしょうか。生活習慣の管理がおろそかになり健康を害するだけでなく、医師から得た情報や指導内容を正しく理解できずに健康問題を解決することが難しくなります。一方、ヘルスリテラシーを高めれば、健康的な行動習慣が身につき、健康問題に対して自分で納得のいく解決ができるようになるでしょう。
医療の世界に「100%正しい」はない
科学や医学は「絶対的な正解」が存在する世界のように思われがちですが、実際はそうではありません。医学では常に研究が進められ新しいエビデンスが出てくるため、「正しい情報」は常に変化しアップデートされていきます。今日正しかったことが明日には違う情報に上書きされる可能性もあるのです。
また、医療にはリスクがつきものです。薬には副作用があり、100%成功する手術はありません。重要なのは「メリット(利益)」と「デメリット(危険)」を天秤にかけて考えることです。自分の価値観も加味しながら、最善の選択をすることが大切です。
信頼できる情報の見極め方
情報には一次情報(情報源となる本人が実際に体験したデータ)、二次情報(一次情報をもとに解釈や編集を加えたもの)、三次情報(二次情報をまとめたものや情報源不明の情報)の3種類があります。基本的に情報源に近いほど信頼性が高いとされますが、SNSの普及により個人が一次情報を発信することも増え、誤った情報や偏った意見も多くなっています。
情報を受け取ったときは、「誰が発信しているのか」「どの段階の情報なのか」「そのソースはどこか」「根拠はあるのか」を確認する習慣をつけましょう。
誤情報を信じてしまう心理的仕掛け
「私は騙されない」と思っていても、発信側の意図や心理的な仕掛けによって気づかないうちに誤情報を信じてしまうことがあります。いくつかの心理的テクニックを知っておくと、新しい情報に触れても冷静に判断できるようになります。
1. フレーム効果
数字の示し方によって印象が変わることです。「9割の方に効果がある」と「1割の方には効果がない」では同じ内容でも印象が全く異なります。
2. バーナム効果
誰にでも当てはまるような内容なのに、自分だけに当てはまると勘違いする心理です。占いがその典型例です。
3. ウィンザー効果
第三者からの情報を信じてしまう傾向です。商品の口コミやレビューを信頼しがちなのはこの効果によります。
4. ハロー効果
ある目立った特徴に引きずられて評価がゆがむ現象です。大学教授などの権威ある肩書きを持つ人の意見を疑いなく受け入れてしまう傾向があります。
5. エコーチャンバー現象
SNSなどの閉鎖空間では似た意見が共鳴し、特定の思考に偏りやすくなります。そこでの意見を社会の大多数の意見だと錯覚しがちです。
6. 確証バイアス
自分の先入観を肯定するために都合の良い情報ばかりを集めてしまう傾向です。
信頼できる情報源を知る
インターネットで健康情報を調べる際、最も信頼できるのは公的機関のサイトです。例えば、厚生労働省の「e-ヘルスネット」や国立がん研究センターの「がん情報サービス」などがあります。上位表示されるサイトよりも、まず公的機関の情報をチェックし、大まかな内容を把握した上で他のサイトの情報を見るとよいでしょう。
また、研究活動にも利害関係が存在することも認識しておく必要があります。企業から資金提供を受けることで研究結果に影響が出る可能性もあります(利益相反)。研究者は科学に基づいた客観的な視点での正しい結果を出すべきですが、資金提供源にとって不利益な結果は公表されにくいこともあります。
まとめ:自分の健康は自分で守る
情報があふれる現代社会では、ヘルスリテラシーを高め、質の高い情報を見極める力を身につけることが重要です。数字のトリックに騙されず、医療の不確かさを理解し、信頼できる情報源から最新の知識を得ることで、自分の健康を自分で守る力が育ちます。
「質の高い情報」は限られています。情報を鵜呑みにせず、常に立ち止まって考える習慣をつけましょう。そして現在の自分の健康状態を把握した上で、メリットとデメリットを比較検討し、自分にとっての最善の選択ができるようになることが、真のヘルスリテラシーです。